10月20日(日)、先に行われた東京レガシーハーフマラソン2024の興奮もまだ残る国立競技場で、「第3回パラ陸上教室」を開催しました。スポーツ日和の晴天のもと、87名の参加者がそれぞれのスタイルでトラックを駆け抜け、笑顔の花を咲かせました。
この教室は東京マラソン財団の主催大会(東京マラソン、東京レガシーハーフマラソン)のチャリティに寄せられた寄付金を活用した「スポーツレガシー事業」の一つとして実施しています。どんな障がいのある方でもスポーツの聖地・国立競技場のフィールドに立ち、アスリートが感じた興奮と感動を体験することで、次の成長を育み、新たな夢を目指せる機会の提供を目的にスタートし、3年目となった今年から一部の教室では障がいの有無に関わらずどなたでも参加いただけるよう募集対象を広げ、募集人数も増やしました。
■障がいのある人もない人も、みんな仲良くランニング!
今年も3つの教室を実施しました。今年から募集対象を広げた「チャレンジ陸上教室」には、知的障がい・ダウン症の方と、そうでない方を合わせて63名が参加しました。ヤマダホールディングス陸上競技部の安部孝駿さんらの講師陣が速く走るための動きづくりから走り方などについてお手本を示したり、個別にアドバイスを送ったりしながら丁寧に指導しました。
日常的にスペシャルオリンピックスのアスリートとして活動しているという息子さんを見守っていたある保護者の方は、「以前は自分のことしか見えていないような子でしたが、スポーツを始めてからお友だちの様子など周囲を気にかけるようになりました」とスポーツ参加による社会性の芽生えを喜び、「今日は普段とは違う人たちと関われるかなと応募しましたが、息子が楽しそうにしていて、参加できてよかったです」と目を細めていました。
今年は講師として新たに、「全ての子供に平等なスポーツ機会を提供する」をテーマに活動する一般社団法人CORD PROJECTの皆さんにも加わっていただきました。同団体は知的障がいのある子どもたちを対象にしたスポーツ教室の定期開催や児童養護施設を訪問し、スポーツ機会の提供などを行っています。
CORD PROJECTの池淵智彦代表は、「障がいのある子どもたちは外出もままならず、スポーツに触れる機会も少ないのが現状です。この『パラ陸上教室』はとても意義のある活動だと思い、参加させていただきました」と参加への思いを話しました。また、今年から障がいのある人とない人が一緒に参加するようになったことについても、「素晴らしいですね。実は私たちの教室の参加者の保護者からも、『健常者と同じ環境でやりたい』という声が非常に多いのです。インクルーシブなスポーツ環境づくりを東京レガシーハーフマラソンの関連イベントとして行われることでより注目され、広がっていくきっかけになればと願います」と期待を寄せました。
障がいのない兄妹(小学6年男子と4年女子)の保護者の方は、「大会公式ウェブサイトで、今回から健常者でも参加できると知って応募しました。障がいのある人と一緒に走るという経験は子どもたちにとって大事なことだと思ったからです。触れ合うことでお互いを知るきっかけにもなりますし、こういう機会がもっと増えたらいいですね。本当はレーサー(競技用車いす)も体験させたかったです」と参加の理由と感想を話していました。
■風を切る楽しさを体感。「レーサー(競技用車いす)教室」&「フレームランニング教室」
日常的に車いすを使う方を対象にした、「レーサー教室」にはレーサー初心者から経験者 まで15名が参加しました。講師陣は関東パラ陸上競技協会代表、車いすマラソンパラリンピアンの花岡伸和さんと同協会理事の寒河江核さんのレギュラー陣に加え、今年は東京レガシーハーフマラソンに出場した樋口政幸選手と遠山勝元選手もゲスト講師として加わり、参加者に声をかけながら一緒に汗を流しました。
緊張気味の初心者も丁寧な指導によってレーサーで走れるようになると、「スピードが出て気持ちいいです」と笑顔に。また、将来の夢は「パラリンピックに出ること」という小学3年生の女児など経験者たちは、「楽しい~」と声を弾ませ、トラックを何度も往復していました。
「若い人たちは笑顔がキラキラしていて、エネルギーも違いますね」と感想を話したのは樋口選手です。ゲスト講師として参加した理由を、「車いす陸上の競技人口の減少を心配しているので、少しでも発掘・普及につながれば」と期待していました。
遠山選手も、「競技人口が少ないなって思います。こういう教室で『楽しい』と思って競技を続けてもらえたら嬉しいなと思って(講師として)参加しました」。自身も小学5年生のときに車いす陸上の体験会に参加し、「楽しいな」と思ったことがきっかけで競技を始めたそうです。「陸上を始めてもらえたら嬉しいけど、他のスポーツでもいいから続けてほしいです。スポーツを始めると、人との出会いも広がりますから」と、参加者たちにエールを送っていました。
「フレームランニング教室」には9名が参加しました。フレームランニングは脳原性まひで体のバランス維持が難しい人でも安全に行えるように考案されたスポーツで、フレームランナーという三輪の乗り物に座って足で地面を蹴って自走します。パリ大会から採用されたパラリンピックの新種目でもあります。
講師の一人で、競技普及に努めている日本パラ陸上競技連盟の手塚圭太さんは、「少しずつですが、参加人数が毎年、増えています。連続で参加してくれている子もいて、だんだん上手になっていて嬉しいです」と喜びました。
以前、レーサーも体験したことがあるという小学6年生の男児は、「レーサーよりもスピードが出しやすくて、おもしろい!」と初めて挑戦したフレームランニングを気に入った様子。手足にまひがあるそうですが、お母さんによれば、体を動かすのは大好きなようで、1年ほど前にスポーツに挑戦しはじめてから、「あれもやりたい、これもやりたいと、どんどん意欲的になった」そうです。
■「100mチャレンジ」で力試し!
各教室での練習終了後、新たな取り組みとして「100mチャレンジ」を行いました。東京オリンピック・パラリンピックでも使われたホームストレッチで100m走のタイム計測を行うというもので、選手気分を味わえたり、練習の成果も感じることができます。
それぞれのペースで100mを走り切った参加者からは、さまざまな感想が聞かれました。「選手のように走れて、楽しかった」「100mは長いかなと思ったけど、走ってみたら気持ちよかった」「けっこう風が強かったけど、みんなに応援されて、頑張れました」
参加者のチャレンジを見守ったフレームランニング講師の平松さんは、「体を動かす体験だけでなく、競争することも必要です。勝負というか、人と競い合うこともスポーツの魅力の一つだと思うからです」と意義を話しました。
競争することで練習の成果や自分の成長を実感し、やりがいを感じられます。一緒に走る仲間と刺激しあったり、互いに応援し合ったり、たとえ負けても、悔しさは、「もっと速くなりたい」という挑戦心にもつながることでしょう。チャレンジを終えた参加者たちの充実の表情は、そんなスポーツの力も伝えてくれました。
これからもスポーツレガシー事業を通じて、チャリティランナーの皆さまからいただいたあたたかいご寄付を有効に活用させていただき、パラスポーツの普及・発展に貢献していきます。
なお、教室運営には東京都理学療法士協会や江戸川区パラスポアンバサダーなど多くの皆さんにもご協力いただきました。ありがとうございました。

東京マラソン財団がスポーツを起点として21世紀の社会に、後世につながる「レガシー」を遺していきたいという想いから始めた事業で、東京マラソンおよび東京レガシーハーフマラソンチャリティを通じて寄付者の皆さまよりお預かりした寄付金を、アスリートの強化・育成、スポーツ施設などの環境整備、スポーツ大会の支援などに活用しています。