ウェルビーイングを創出する東京建物のまちづくり
―― 東京建物さんが東京レガシーハーフマラソンとパートナーシップを結んだ理由や背景、共感した理念などについて教えてください。

後藤 当社は総合不動産デベロッパーとしてまちづくりをしている会社で、最も多く事業展開しているが東京のまち、都市になります。東京レガシーハーフマラソンとは舞台が同じということで、ものすごく親和性があることが大きな要素でした。
また、当社がまちづくり、都市の開発を通じて創出していく社会価値の一つに「ウェルビーイング」があります。建物やまちはとても長い時間を過ごす場所になるので、実際にそこに集う人たちが心身、社会的にも健康であって、色々なコミュニティの中で生き生きと心地良く過ごし続けられるような場を提供していくことが、我々のミッションの一つになります。東京レガシーハーフマラソンは健康維持、健康増進の目的で参加されるランナーも多い大会だと思います。ウェルビーイングの観点からも非常に共感できますし、そんなランナーの皆さんを応援したいと思い、昨年からパートナーシップを結ばせていただいております。
また、当社が新規事業としてスポーツ関連事業に近年力を入れていることも大きな理由になっています。
―― 新規事業ということは、東京建物さんはスポーツに大きな可能性を感じているということでしょうか?
黒田 私は現在、2023年10月に国立競技場の南側に開園した都立明治公園を担当しています。都立明治公園の周辺は国立競技場や神宮球場なども近いことから、スポーツを観戦する人が多く訪れるのですが、東京レガシーハーフマラソンでは実際にスポーツをする人たちがこのエリアに集まる光景が見られる貴重な大会だと感じています。
ランナーやスポーツをする人で都立明治公園近辺が盛り上がることで、地域に活気も生まれます。見るだけではなく、自ら楽しむことのできるスポーツの機会を提供してまちの賑わいを創出したい。スポーツ事業を通したまちづくりを目指し、様々な企画を練っています。
具体的な取り組みの一つとして「Runner’s Park Tokyo」というランニングコミュニティを立ち上げました。こちらでは東京マラソン財団のランニングコミュニティである、ONE TOKYOにもコミュニティパートナーとしての協力を得ながら、都立明治公園から明治神宮の周辺までランニングを楽しんでいただいたり、公園内の温浴施設「TOTOPA」をランステーションとして利用していただけるような空間を作っていこうと取り組んでいます。

私自身も東京レガシーハーフマラソン完走を目指して今年の1月から走り始めました。体重も10kg以上落ちて、健康になりました(笑)。やればやるだけ成果が出るという分かりやすさがランニングの素晴らしさだと思いますね。しんどいものだと思っていたのですが、運動の負荷としてもそれぞれのペースで誰でもできるところにも多様性があるのでむしろ楽しくて、自分をポジティブにさせてくれる良いきっかけだと感じています。そういう体験こそがウェルビーイングにもつながり、活気あるまちづくりにもつながっていくのだと考えています。
コースの折返し点には知られてない歴史、文化資源がたくさん

アート×折返し点タワー/ “YNK” TURNING POINT
東京建物が協賛する障害のあるアーティストを対象とした国際アワード「HERALBONY Art Prize 2025 Presented by 東京建物| Brillia 」において、「東京建物| Brillia 賞」を受賞したアマンダ・アンジェラ・ソエノコ氏による作品「The Mystic’s Dreams( 神秘主義者の夢)」( 以下「本作品」)を採用した日本橋の折返し点タワーのデザイン
―― 今年の取り組みの目玉の一つ、「“YNK” TURNING POINT(インク・ターニングポイント)」について教えてください。
後藤 コースの折返し点が位置する東京駅の東側、八重洲・日本橋・京橋(YNK)は当社が重点エリアと位置付けるまちであり、この立地を活かして何かできないかと東京マラソン財団と相談する中で出てきた案が「“YNK” TURNING POINT」でした。ランナーの皆さん、観戦で訪れる方たちにもっとこのまちの魅力や歴史を知っていただきたいという想いがあります。

渡部 まず「YNK(インク)」というキーワードですが、八重洲(Y)・日本橋(N)・京橋(K)の頭文字をとっています。この地域はもともと江戸時代に発展した町人、商人のまちで、非常に多様な人々が住んで、商いを行い、支え合いながら暮らしてきました。当社もこの地に本社を置いて、来年で創業130周年を迎えます。
エリアの特徴の一つとして、日本橋にはかつて魚河岸があり、江戸のソウルフードである寿司、そば、天ぷらが流行るなど多彩な食文化が生まれました。一方で京橋に行くと、竹河岸、青物を売る大根河岸などの市場があって、それに伴って竹細工などを作る職人さんも多く集まりました。それに相まって、アーティストが集っていた地域でもあります。実は歌川広重が晩年を過ごした屋敷や、北大路魯山人の「美食倶楽部」の拠点ができるなど、YNKにはあまり知られていない文化資源がたくさんあるんです。
我々はそれこそがまちの一番の魅力だと感じており、掘り起こし、磨いて、光らせて、皆さんにお伝えするために様々な機会を創出することに取り組んでいます。YNKからは皇居、隅田川 も近いのでランナーの皆さんには馴染みのあるエリアかと思います。東京レガシーハーフマラソンがまちの魅力や歴史を知っていただく一つのきっかけになれば嬉しいと思っています。
―― 「“YNK” TURNING POINT」をアートで彩るヘラルボニーは「障害(ヘラルボニーの意向からあえて漢字)のイメージ変容と福祉を起点に新たな文化の創出を目指すクリエイティブカンパニー」とのことですが、コラボレーションの背景、目的などについて教えてください。
後藤 今回、折返し点をエリア名称であるYNKから命名させていただいたほか、この折返し点に設置するタワーにはヘラルボニーの作品をデザインとして起用させていただきました。ヘラルボニーとは4年ほど前から様々なコラボレーションに取り組んでいます。当社はマンション、オフィス以外にも商業施設、ホテル、公園など不特定多数の方々が集まるまちづくり、場づくりを行っているため、多様性やDE&Iは必要不可欠な要素です。その観点から、10年前の2015年から日本パラスポーツ協会のパートナーも務めさせていただいています。ヘラルボニー代表の松田兄弟の「先入観や常識という名のボーダーを超える」という想いに強く共感したことも大きいですし、何より作品が本当に格好いいです!ヘラルボニーは世界中から障害のある作家の作品を募集する国際アートアワード「HERALBONY Art Prize」を主催されているのですが、当社は初回から協賛しており、多様な方々が輝ける場を一緒に作らせていただいています。
今回、「“YNK” TURNING POINT」に設置されるタワーのデザインは、「HERALBONY Art Prize 2025 Presented by 東京建物|Brillia」で「東京建物|Brillia賞」を受賞したインドネシア在住のアマンダ・アンジェラ・ソエノコのアートをデザインに起用しています。
本大会やアートを通じて、一人でも多くの方々に何かの気づきがあり、明日からの行動を少し変えてみよう、まちで困っている方々への接し方を少し変えてみよう、家族との会話の中で少し話題に出してみようとか、そんなきっかけを少しでも届けられたらという想いから、様々なパートナーシップやコラボレーションの取り組みをしています。
また、「“YNK” TURNING POINT」にはビジョンが設置され、定点カメラで折返し点を走るランナーの様子が投影される予定です。ランナーの皆さんにとって、思い出の一つになれば嬉しいです。
まちづくり × スポーツ × アートの可能性

―― 「“YNK” TURNING POINT」は東京マラソン財団のアートプロジェクトの一環としても実施されます。スポーツとアートの融合についてはどのように考えていますか?
後藤 もともとスポーツとアートはものすごく近しいものだと思っています。どちらも自己表現することが大きな共通点としてあり、人生を輝かせてくれる非常に大切な取り組みという点では同じだと思います。そして、何よりも人の心を動かすもの。東京マラソン財団がマラソンとアートを掛け合わせた「アートプロジェクト」の取り組みを行っていますが、ものすごく相乗効果があるものだと思っています。 スポーツとアートのどちらが入り口でも良いので、そこから発信されているメッセージを感じ取るというのはすごく意義深い取り組みだと思いますし、当社が考えているものとすごく近いところがあると思っています。
渡部 「建物の中」をどうするかと考えることも重要ですが、まちづくりも含め、最近の新しい取り組みは「建物の外」をどうするか、ということを考えることが多くなってきました。アートの文脈で例えると、YNKのプロジェクトではビルの外にアートを展示してまちを回遊してもらうようなイベントを企画するなど、いかにまち全体に愛着を持ってもらうかというプロジェクトが増えてきています。それこそがデベロッパーの役割だと思っていますし、スポーツという視点も非常に大切だと考えています。 私も以前はすごく走っていた時期があり、建物の外をどう回遊してもらうかと考えると、ランニング、ジョギング、ウォーキングはウェルビーイングの観点からもどんどん企画に盛り込んでいきたいと思います。
ランニングを通してそれぞれのまちの魅力を知るきっかけに
黒田 私も都立明治公園界隈をよく走るようになって様々な気づきがあります。電車やタクシーに乗ってしまうと、まちの細かな部分に気づきにくくなります。でも、走ることによって「あ、こんな道があるんだ」「美味しそうなお店があるな」など偶発的なまちとの出会いが生まれ、ランニングの良さはそこにもあるなと個人的に思っています。 最近ではニューバランスさんと一緒にまち中にポイントを設けて、走りながら点数を獲得するというイベントを開催しました。周回コースとは異なるゲーム性があり、ランナーの皆さんがすごく楽しそうに走っていたのが印象的でした。「まち×ラン」と掛け合わせた取り組みには可能性があると感じています。
渡部 「まち×ラン」の発見というと、東京レガシーハーフマラソンでは日本橋を走りますが、日本橋は五街道の起点にもなっていて、そこから江戸のまちが栄えていきました。東京の起点となった意義のある場所だと思います。ランナーの皆さんが走り、応援するYNKエリアで、昔のまちの営みや、発展までの道のりに思いを巡らせ、いつもとは違う視点で見ていただくきっかけになればと思っています。
―― 最後に、今回の取り組みを通して見えてきた今後のまちづくり、地域貢献などの展望について教えてください。
黒田 東京レガシーハーフマラソンは国立競技場がスタート・フィニッシュというのはこれからも変わらないと思いますので、都立明治公園の取り組みを今後も盛り上げていきたいです。東京レガシーハーフマラソンやランニングコミュニティ「Runner’s Park Tokyo」をきっかけに、都立明治公園周辺に足を運ぶ人が増え、まちの活気も生まれます。これこそがまちづくりを通した地域貢献だと考えています。
渡部 東京のまちは世界でも珍しいくらい小さな面積の中に様々な魅力が混在していると思います。一方で、高層ビルが建ち並んでいるので画一的だと言われることもあるのですが、東京レガシーハーフマラソンを走るランナーの皆さんには、ランナー目線でまちの異なる雰囲気の面白さを感じて楽しんでいただけたらと思います。特に、YNKと都立明治公園の魅力を感じていただけると嬉しいです!それをきっかけに、あらためてまちに足を運んでみようとか、走った時に見つけたお店に行ってみようとか、そういった次のアクションにつながるきっかけになり、それがまちに還元される。そんな循環が生まれると良いと思います。
後藤 当社が取り組む「まちづくり」とは、単に建物をつくることではなく、人々の暮らしや営みを豊かにし、誰もが健やかに過ごせる場を創り出すことです。東京レガシーハーフマラソンとのパートナーシップは、その理念を具体的な形にする機会となり、スポーツを通じたまちの魅力や文化の再発見、ウェルビーイングの推進、そしてアートを通じた多様性の発信へと広がりを見せています。これからも、東京レガシーハーフマラソンをはじめとするスポーツやアートの取り組みを通じて、多彩なつながりを育み、未来へと続く豊かなまちづくりに挑戦していきたいと思います。